【旅行記】Vol. 24 プラハ4

 3月6日の朝、上品なホテルのレストランで朝食を取りました。明るくて広いホールです。どうも我々の恰好では場違いですが、それは些細なことです。パンは手元に転がっている限りのマーガリンでぴかぴかにしてから食べ、色が変わったコーヒーを飲み、オレンジジュースを三杯以上汲みに行き、最後の仕上げにこちこちの丸パンを牛乳で流すといういつもの行程です。
 

 今日はプラハ城の予定でしたが、予定を変えてちょっと足を伸ばすことにしました。地下鉄に乗って郊外散策です。目的地はヴィシュフラドという旧城。どこかで聞いたことあるな、と思っていたら、これはスメタナ作曲の交響詩『わが祖国』の第1曲目の題名です。この旧城がモデルだとそのCDについているライナーノートに書いてありました。ちなみに2曲目は有名な《モルダウ》です……いかにも星霜を経た感のある巨大な門が我らを迎えました。
 



 プラハ城近辺の喧噪に飽きたら、ここに来てヴルタヴァ川の流れを眺めると、さぞ気分が落ち着くのではないでしょうか。プラハ城は色彩が、ここは枯淡が似合います。あちらは若やぎ、こちらは老境です。疲れたら、たまにはご老体の懐の深さに甘えるのもよろしいでしょう。
 

 次の目標はベルトラムカです。モーツァルトプラハにいた頃、作曲に耽った家で、今は博物館になっています。ヴィシュフラドから苦労の末に河岸通りに降り、橋を渡って路面電車に乗ります。無闇やたらと乗り込むととんでもないところに運ばれることになりますので慎重を要します。無論、それも観光と割り切って乗れば、行って戻ってくるまでごとごと揺られながら街の風景を眺めることが出来ます。僕がモスクワ時代によく学校をサボってやったことです。ところが、今回はそんな余裕はありません。やはりプラハ滞在が4日というのは短いようです。
 
 
 確か二十番と書いてある電車に乗ればベルトラムカに一番近い停留所に降りられるはずですが、肝心の乗り場が分かりません。これを探すのに三十分も右往左往してしまいます。停留所にやっとのことで辿り着くと今度は雨です。おまけに乗った電車を間違えて、あやうく地の果てまで連れて行かれそうになるドツボぶり……さっさと降りて元の場所に戻りました。調べてみると、同じ路線でも途中で分かれていて、我々が乗った停留所で分岐していたのです! 異邦で意表を突かれると対処のしようがありません。。。


 気を取り直して乗った電車、今度は完璧です。しかし、次は、どこで降りるのか見張っていなくてはなりません。停留所名が具体的に分からない場合や、見たこともない景色の街を移動する場合など、目を皿のようにしていないと油断も隙もありません。その努力の甲斐があって今度は首尾よく目的地に着き、強くなった雨の中を二十分ほど歩くだけでベルトラムカに入ることが出来ました。



 
 モーツァルトはここでオペラ『ドン・ジョヴァンニ』や『皇帝ティートの慈悲』などを作曲したとのこと。チェコの人たちはオーストリア人に負けないほどモーツァルトが自分たちに関係の深い偉人だと考えているようで、この建物はモーツァルト生誕200年を記念して博物館になったそうです。