宇宙で一番正確な時計

友達と腕時計の話をしたり、雑誌に乗っている腕時計を見たり、編集者といろいろ語ったり、店頭で様々な実物を見たりすると、ふとこんな疑問が湧いたりするものです。


『時計の正確さっていったい何だ?』


いろいろと考えてみたのですが、どうやら、例えば時報で12時にぴったり合わせて1ヶ月後の同じ時刻に調べた時にどれくらい遅れているのか、が正確さを考えるのに最も妥当ではないでしょうか? つまりある一定の時間が経過した後にどれくらい狂いがあるのか、ということで。市販されている時計はどれくらいの精度なんでしょうね。1ヶ月後に数秒程度の遅れでしょうか?



まあこの疑問自体は、疑問とも言えないくらいの他愛のなさではありますが、次は、


『一番正確な時計は何だろう?』


などと考えてしまいます。
以前、4/13の記事でも触れましたが、セシウム原子を使う原子時計は3,000万年に1秒程度狂うとか。1ヶ月後に狂ってくれるのは3億6,000万分の1秒。。。我々が日常で使用する時計の精度にこんなすごいものは必要ありませんが……
で、これ以上に正確な“時計”が他にも何もないかと調べてみましたところ、ありました。


それは『PSR 1937+214』と呼ばれるものです。


何のことか分かりませんね、これでは。
これはミリセカンド・パルサーと呼ばれるものです……が、これでも何のことか分かりませんよね。。。


これは極めて早く回転(自転)する中性子星(パルサー)のことです。5/1の記事をご覧いただけるとありがたいのですが、中性子星とは太陽より少し大きい恒星の最後を飾る様態で、星の構成要素が中性子で出来た小さな球です。ミリセカンド・パルサーとは、その中でも非常に非常に早く自転している中性子星のことで、どれくらいの速度で自転(一回転)しているかというと 0.001557806449023秒。つまり1秒間に624回の自転をしていることになります。この星が直径20kmだとすると赤道での周囲は 62.8 km くらいとなりますが、赤道地点では1秒間にその距離の642倍……40,335km……光速度の13.5%で運動していることになります。ちなみに、地球ですと赤道での自転による運動は秒速400mくらいです。


※ これは右上方向にジェットを放出するほ座のベラ・パルサー。

 中性子星自体は内部に存在し、ガスに遮蔽されて見えません。Wikipediaより拝借。


中性子星はゆっくりと減速しています。一般的な見解として減速する理由は、自分の途方もなく強大な磁場の抵抗を受けながら高エネルギーの粒子や放射線を放出するためだ、と考えられています。もちろんこのミリセカンド・パルサーも減速していて、その自転周期は9日と6時間毎に1000兆分の1秒長くなる……すなわち、遅れる、ということです。このままのペースで減速していくと、10億分の1秒遅れるのは250億年後となります。。。


これが1秒遅れるとしたら 250億×10億なので……え〜と、、、2,500京年?
と、なると、さ、先ほどの「1ヶ月後にどれくらい遅れるか」を求めて計算してみると、、、3垓(がい)分の1秒。
3×10の20乗分の1秒の遅れ、ということです。
そう言えば、宇宙の現段階での年齢って137億才なんでした、、、


ところで、さて、これだけの正確さが何の役に立つのか、ということですが、1つの例は「地球が太陽の周りを運行する時間を測定する」のに使うことが出来ます。地球は、宇宙に地球と太陽しかない時の理論的な位置よりも前に出たり後ろに下がったりするのですが、この運行の乱れをこれまで以上に性格に測定することが出来る、ということです。こうした偏りの大部分は、他の惑星が地球に与える摂動によるものですが、この摂動はまた、それらの惑星の質量や時間とともに変わる位置関係に左右されます。直接的な観測によって、そしてミリセカンド・パルサーの正確極まりない精度で惑星の位置を知れば、それぞれの惑星の質量……特に外側の惑星である天王星海王星のもの……をこれまでにない極めて高い精度で計算することが出来る、と言われています。


天王星           ※海王星


そうだ。。。
止まってしまった腕時計、修理に出さないと。
ほったらかしにしておくとよくないと友達に言われたので。。。