ダンテの『神曲』

大学生の頃、読んでみました。
『地獄編』『煉獄編』『天国編』の3部構成で、各編は34歌、33歌、33歌の合計100。聖なる数3を基調にした均整の取れた構成から、ゴシックの大聖堂に喩えられる……と何かで読んだので大学図書館で探し出して借りたものです。ついでながら、最初の地獄編の冒頭の1歌は全体の序章の役割があるので、全ての編が33歌で構成されていることになります。「幾何学的構成美を見せている。ダンテはローマカトリックの神に関する教義、「三位一体」についての神学を文学的表現として昇華しようと企図した。すなわち、聖数「3」と完全数「10」を基調として、 1,3,9(3の2乗),10(3の2乗+1),100(10の2乗,33×3+1) の数字を『神曲』全体に行き渡せることで「三位一体」を作品全体で体現した」らしいです、ダンテ氏は。


※ダンテ・アリギエーリ 〜なかなか男前ですな。。。


で、内容ですが、いやはや……めくるめく歴史上の人物の登場と場面展開に泣きそうになりつつ、またキリスト教の知識がないために途中で溺れそうになりながら、取りあえず最後まで読んだのものの、翻弄されて終わり!……宇宙の深淵を覗き込むような場面や、巨大な渦潮に巻き込まれてしまいそうな表現や、心に霜を降らせるように挿し絵に恐々としながら読み進んだのを覚えています。


※「冥界の渡し守カロンが死者の霊を舟に乗せてゆく。地獄篇の挿絵より」 〜……


地獄編の最初に『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』という銘が掲げられているのは余りに有名。冥府の裁判官ミーロスが出てきたり、ケルベロスミノタウロスに出くわしたりと大騒ぎ。よくもこんなに凄惨な場面が書けますねえ……というぐらいの描写。最後は堕天使ルシフェル(ルチフェロ/サタン)が、キリストを裏切った(とされる)ユダ、カエサルを裏切ったブルータスとカシウスの3人を口の中で噛みしめて終わり、、、うううううううん!


※地獄篇の冒頭。気が付くと深い森の中におり、恐怖にかられるダンテ。 ギュスターヴ・ドレ による挿絵 〜そりゃ怖いですわね……


次は煉獄編です。煉獄とは「『浄火』あるいは『浄罪』とも言う。永遠に罰を受けつづける救いようのない地獄の住人と異なり、煉獄においては、悔悟に達した者、悔悛の余地のある死者がここで罪を贖う」場所。あ、そうだ、遍歴を続けるのは作者のダンテと、古代ローマ時代の詩人ウェルギリウスウェルギリウスとは初代皇帝アウグストゥスの治政下で活躍した、ホラティウスと並ぶローマの国民的詩人です。地獄を抜けて一安心の2人は、煉獄の入り口で小カトーに出会います。小カトーとはマルクス・ポルキウス・カトー・ウティケンシスのこと。カエサル時代の反カエサル派で超うるさ方の元老院議員。ちなみに、この人のヒイおじいさんが大カトーマルクス・ポルキウス・カトー・ケンソリウス。ややこしいですねえ……
ところで、煉獄の入り口で小カトーに会った時は「おや! 妙なところで会うじゃありませんか、だんな!」という感じだったでしょうな。しかしこの親父、こんなところで何をやっていたんでしょうねえ……恥ずかしながら、読み返さない限り永遠に分かりませんねえ、、、


※ダンテに呼びかけるベアトリーチェ ウィリアム・ブレイク


そして、煉獄でウェルギリウスと別れ、永遠の淑女と言われるベアトリーチェに導かれて天国へ。「天国へ入ったダンテは各々の階梯で様々な聖人と出会い、高邁な神学の議論が展開され、聖人たちの神学試問を経て、天国を上へ上へと登りつめる。至高天においてダンテは天上の純白の薔薇を見、この世を動かすものが神の愛であることを知る」とのこと。最後は「諸天使、諸聖人が「天上の薔薇」に集い、ダンテは永遠なる存在を前にして刹那、見神の域に達する」ようです。。。ううう、、、


※至高天を見つめるダンテとベアトリーチェ 〜ううううむ、、、、



そうそう。これだけは十数年前に手帳に書きつけて覚えているくだりがあります。


 うるわしき楽しみのために悦ぶ魂等が
 相結びて造りなしし
 かの美しき像(かたち)は
 翼を開きて我が前に現わる


この1歌、実はわたくしめが大学の応援団で長になった際に学ランを作ったのですが、背中の裏地に縫い込んでもらったものです。ひどく怖い先輩と、もっと怖い学ランの仕立て屋のおじいさんのところに行って、この一文を記したメモを渡して、泣きそうになりながら「お願いします!」と頭を下げたものでした。カタギなのかどうかよく分からないおじいさんは「こんなことを頼んできたのはお前が初めてや!」とドスの利いた声で言い、1ヶ月後にはきちんとこの言葉を入れてくれた学ランを作ってくれました。。。あの学ラン、血と汗と呪いが染み込んだままなのですが、後輩たち、大丈夫でしょうか、、、


※この学ランの裏に。。。


このダンテの『神曲』は、よくあることですが、後世の人々に極めて多大な影響を与えました。
トスカナ地方の方言で書かれたこの作品の文体が、現代イタリア語の基礎になったとか。ミケランジェロがシスティナ大聖堂に描いた『最後の審判』の地獄絵はこの作品からの霊感で描いたと。ロダンの彫刻『考える人』は、地獄編の第3歌に着想された「地獄の門」を構成している群像の1人を彫像したもので、これはダンテ自身と云われています。ピアノで高名なフランツ・リストは『ダンテ交響曲』を作曲し、ピアノ曲では『巡礼の年 第2年』で「ソナタ風幻想曲《ダンテを読んで》」を作曲。チャイコフスキーは、『神曲』中の絶唱とされる地獄篇第五歌にうたわれた、フランチェスカとパオロの悲恋を題材として、幻想曲『フランチェスカ・ダ・リミニ』を作曲。その他、T.S. エリオット、ルイス・ボルヘスアレクサンドル・デュマバルザックソルジェニーツィンゴダールなど……他にも多数。。。


あああああ!
やっぱりもう1度読み返さなきゃ!


作家デビューしたとき、「僕はダンテの神曲にものすごく影響を受けました!」とインタビューで言ってやろうかなと。。。
あ、いやいや、僕が1番影響を受けたのはドストエフスキーでした。
浮気はいけません。。。


※参考資料、画像はいつものようにウィキペディアより拝借。あ、それと私の手帳から。